ニューヨークから、マディソンです。
NYFWコレクションをはしごする合間に入った、ダウンタウンにあるホイットニー美術館の一階で、プラスチック製のバッグを頭にかぶったモデルの看板を目にしました。
興味を惹かれて、カフェ横にあるその会場に出向くと、ファッションデザイナーが、ポップアップ・ショップのような展示を開いていたんです。
タイトルは、エコーズ・ラッタ〝憑りつかれたように“
案内版によると、マイク・エカウスとゾーイ・ラタが立ち上げた、現代アートとファッションの融合したコレクションとのことでした。共にロードアイランドのデザインスクールで学んでいた二人は、その頃から古着やプラスチック、アクリルなどの変わった素材で服を制作していたようです。手前のボードには、商業主義に反旗を翻し、大量生産ではなく手作りの服を着ることによって、その人自身の個性がより明らかになる、そんな服を目指していると解説されています。
入り口にはまず、ファッション・ウィークのこの時期街のあちこちで見かけるような、モデルがコレクションを着てポーズしているポスターが飾られています。そのポスターにライトをあてているのはしかし、彼らなりの批判なのです。彼らの服は、服自体で見ると商業主義と対局にあるものの、こうしてほかのコレクションと同じようにPRすれば、商業主義の流れに乗ってしまうのですから。敢えてそうせずに、つまりコレクション・ショーをしないで美術館の中にポジショニングしたことに、反骨精神が垣間見えますね。
ポスター陳列を通り過ぎると、ポップアップ・ショップのような、彼らのLAのショップを模倣した空間がひろがります。
幾何学模様のアクセサリーたち。
入口のポスターでモデルたちが来ていたこれらの服は、吊るされているだけだと、色はカラフルですが、とても着て街を歩く勇気が出ません。
ストロー素材やポリエステルを使うことで知られている彼らですが、自分で編んで失敗した作品を着ているよう見られるような気がします。スーツの方はまるでシミだらけのような…。こうしてみると、彼らの作品には実験的に編んでみる、というプロセスが多く使われているようです。
一見ポップアップ・ショップのようですが、もちろん美術館内のアート展示なので、彼らが2011年にブランドを立ち上げてから7年の間にコラボしたアーティストの作品を、あちこちに展示しています。
右手の鏡はスーザン・シャンチオロというアーティストによるドレス鏡ですが、フレームを縁取る素材は、段ボール、シルク、コットンなどなど。
この鏡でドレスアップする人たちは確かに、ランウェイをモデルたちが闊歩するコレクション・ショーに服を見にはきませんね。
スーザン・シャンチオロはエカウスとラタが在籍したロードアイランド在住のアーティストなので、デザイン・スクールの同級生という可能性が高いと思います。
会場に突然現れたこの女性のジャケット、間違いなくエコーズ・ラッタ作だと思います。実際に着こなせる人がいたことに驚きました!
手作り感が漂っている空間には、親しみがあふれています。エコーズ・ラッタでは、服を選ぶ時間というのは、本来ごつごつしているもので自動化しない、個人的でゆったりとした時間であってほしいという思いがあるそうです。
ソーシャルネットワークが発達した現代はその逆で、ざわざわしていて落ち着かず、高額を払って服を購入したのに、その服を着て撮影しインスタに上げた途端にさらに飢餓感が募るような、そんな現代の在り方に、彼らは疑問を投げかけます。
ビーズが裾にあしらわれている。これらのパンツやスカートなら、私でも着こなせるかな。
試着室はこんな感じです。
この試着室も先述のアーティスト、スーザン・シャンチオロの作です。彼女もエコーズ・ラッタ同様プラスチックや、古着などを素材よく使うことで知られているそうです。
またまた勇気ある素材とデザインのトップスですが、少し慣れてきました。
既存の小奇麗な感じが無い分、大胆でパワフルに感じます。服とはこうあるもの、という規制がない自由さ。モデルのようなプロポーションなら、一度はこうしたデザインで、ダウンタウンの街を闊歩するのも、ワクワクする体験かもしれませんね。
古着に、子供のいたずら書きのような犬の絵が描かれていて、その隣にI went in and you went out“あなたは中へ入ったけど、私は外に出て行った”とミステリアスなフレーズが配置されています。
自己を主張する手段としての服。それはもちろん高級ブランドも同じなんですが、私たちは高級ブランドを身に着けるとき、ブランドの力を借りることで自身の価値を何割か上げようとしていますね。コレクションを梯子した結果、高級ブランドに少し食傷気味になってしまったのか、このエコーズ・ラッタのコレクションを、とても新鮮に感じました。
さて、如何でしたか。ではまた、ニューヨークでお会いしましょうね。