(The Metropolitan Museum of Art, BFA.com/Zach Hilty)
ニューヨークから、マディソンです。
今年も東海岸最大のチャリティーイベントの、メット・ガラが5月6日夜行われました。今年のテーマは“ファッションの中のキャンプ。”というのですが、そこはファッション、通常一般的に思いつくキャンピングではありません。
(The Metropolitan Museum of Art, BFA.com/Zach Hilty)
メットガラとは通称で、一年に一度メトロポリタン美術館のコスチューム・インスティテュートが開催する基金集めのイベントのことなんです。
メット・ボウルとも呼ばれていますが、アメリカ版ヴォーグ編集長のアナ・ウィンター主宰のこの催しでは、一晩で何十億円にものぼる寄付金が集まると言われています。アメリカのスターやセレブたちがゴージャスなドレスで現れる、ファッションの祭典でもあるんですよ。
毎年600人程度のゲストが集まるそうですが、招待客にはコストがかからないものの、運よく席が手に入った場合一晩で約300万円のチャージ料だそうです。凄いですね。
(The Metropolitan Museum of Art, BFA.com/Zach Hilty)
ゲストたちはテーマに沿った展示を鑑賞、その後でテーブルについてディナーとドリンクを楽しむそうです。
今年のテーマの“ファッションの中のキャンプ”の、キャンプとは何のことなんでしょうか。
Campという言葉の語源はフランス語のse camperで、“仰々しいふるまいをする”という意味のこの言葉がモリエールの戯曲で広まり、英語のCampに繋がっていったと言われています。
ただこの言葉が英語として定着したのは、文芸批評家であるスーザン・ソンタグが、1964年に“キャンプについてのノート”という論文を発表、これが話題を呼んでからだそうです。
ソンタグいわく、キャンプというのは、不自然なものや誇張されたもの、人工的なものに引き付けられる感受性のことで、
当時抑圧されていたゲイ・カルチャーの中でも、ドラッグ・クィーンのようなファッションがその代表的なもの。写真のドレス、確かにそんな感じありますね。
(The Metropolitan Museum of Art, BFA.com/Zach Hilty)
(The Metropolitan Museum of Art, Johnny Dufort, 2019)
ソンタグの頃から引き継がれたキャンプの精神は、ドラッグ・クィーン的ファッションをはるかに超えて、女性同性愛者の文化がテーマの映画の“ピンク・フラミンゴ”などに繋がっていきます。
ただソンタグのキャンプ的なものには、ゴジラのような日本の怪獣映画も含まれていたそうで、その定義があいまいだという声も当時あったんですね。
去年のテーマは“宗教とファッション”でしたが、今年“ファッションの中のキャンプ”をメトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートがテーマに選んだ理由としては、ファッションの中でのキャンプの定義を明らかにしてみたい、そんな意図もあったようでした。
(The Metropolitan Museum of Art, Johnny Dufort, 2019)
こちらは2013年モスキーノのクリエィティブ・ディレクターに就任した、ジェレミー・スコットの展示です。彼は去年H&Mともコラボしていますね。その背景には、近年のファッション業界のストリート性への歩み寄りがあると思います。
ハイブランドとはいえ、ストリートの力強い影響力を無視できなくなってきています。ハイブランドがスニーカーを続々発表しているのと同じ流れですね。
アメリカ人で、しかもマンハッタンなどではなくカンザス州生まれという異色の存在。ただブランド創設者のモスキーノもでもファッション業界の異端児ではあったので、その点では彼をモスキーノの再来という声もファッション業界にはあります。モスキーノというと忘れられないのがドレスにつけたテディベアですが、ジェレミーも日用品をドレスにアレンジする、創造性あるデザイナー。
彼自身は、自分で自分のことをインスタグラム時代向きと発言していますが、蝶が待っているこのドレスなどまさにインスタ向きですね。
(The Metropolitan Museum of Art, Johnny Dufort, 2019)
こちらは、今回の展示のスポンサーでもあるグッチの、アレッサンドロ・ミケーレのデザインです。
彼がグッチのクリエィティブ・ディレクターに就任したのは2015年のことですが、ローマのデザインスクールを出て、フェンディ、グッチとこちらは正統派のようです。
グッチは近年若者での人気が急上昇中のブランドですが、彼の才能が花開いているようですね。
(The Metropolitan Museum of Art, Johnny Dufort, 2019)
アレッサンドロがクグッチ・リエィティブ・ディレクターに就任したと同じ2015年に、こちらはスペインでスタートしたパロモ・スペインのウエディング・ドレスです。
男性女性の性の境界線を越えるスタイルとして一躍人気沸騰のこのブランドこそ、キャンプにピッタリ感がありますね。男性のためのウェディングドレスでですが、白なのに清楚というよりはシースルーでセクシーです。
(The Metropolitan Museum of Art, Johnny Dufort, 2019)
カニエ・ウエストのクリエィティブ・ディレクターで、建築家、アーティスト、そしてデザイナーと数々の肩書を持つバージル・アブローは今年1月ルイ・ヴィトンのメンズ・アーティスティック・ディレクターに就任して話題を呼びました。アフリカ系アメリカ人がヴィトンのディレクターに就任するのは初めてのことだそうです。
ここでもキーワードはストリートで、彼の就任で、320万人とも言われるそのインスタグラムのフォロワーがヴィトンに注目せざるをえなくなります。さすが老舗ハイブランド、イリノイ州出身の若者であれ、現代の感性を代表する人物なら両手で受け止める、この懐の深さでブランドとしての強さを未来に繋げていくんですね。
写真のスタイルですが、小さなブラックドレスは、ニューヨーカーの女性なら必ずクローゼットに一枚は持っているスタイル。“こんなブーツで歩けるんでしょうか?”という高さのヒールのブーツに、皮肉を利かせた“歩き用”という文字。ユーモアのセンスが光っています。
(The Metropolitan Museum of Art, BFA.com/Zach Hilty)
さて、今年のメットガラのテーマであるキャンプ、如何でしたか。共同開催者にはティファニーとコラボしたレディー・ガガや、コーチとコラボしたセレナ・ウィりアムスの名前もありました。もちろん参会者も華やかでしたが、展示デザイナーの方もスターばかりといった趣でしたね。
ここ近年増々注目度を高めているメットガラの展示ですが、来年はどうなるんでしょう。今からとても楽しみです。
ではまた、ニューヨークでお会いしましょうね。