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『カントリーサイド、その未来』ニューヨーク・ニューヨークVOL.81

今日は、マディソンです。

コロナ・ウイルスが世界中でパンデミックになってきていますね。ニューヨークの美術館は今のところは開いているものの、この調子だとそれもどうなるかわかりません。実は3月初めに、マンハッタン西側で3ブロックほどの広さもある巨大コンベンションセンターで毎年開かれている国際美容ショーが行われる予定で、プロジェクトに参加していたんですが、残念ながらショー自体が中止になってしまいました。

毎年世界中から6万人近くの美容関係者が集まってくる、東海岸最大のショーとなるはずだったんですが…。今の見通しでは8月初めに延期ということらしいんですが、それまでにコロナ、おさまってくれますように。

今日のミーティングはミッドタウンから。

6番街いつもは交通渋滞気味なんですが、かなり空いています。外で携帯をチェックしている人がいますが、コロナの影響でレストランやカフェはガラガラの状態。

ウイルスという目に見えないものが相手なだけに、確かに外にいる方が安全な気がしますね。

マンハッタンの街では、至る所にこうしたアートが飾られているので、そうした意味でも外は楽しく歩けます。


(写真:David Heald© Solomon R. Guggenheim Foundation, New York)

このカタツムリの殻のような外観のグッゲンハイム美術館は、日本でも人気の高い建築家フランク・ロイド・ライトが設計したものです。彼は20世紀のアメリカを代表する建築家でしたが、浮世絵を大いに好んでいて、旧帝国ホテル2代目本館を設計した、その設計料の大半を浮世絵の購入に充てたともいわれているんですね。

ところで、ニューヨーカーが好むジョギングルートの一つが、セントラルパーク内の貯水池周りなんですが(日本で言うと、皇居のお堀の周りといった感じでしょうか)、グッゲンハイム美術館は5番街90丁目というアパーイーストサイドで、貯水池のすぐそばに位置しています。

丁度去年、この建物が世界遺産となりましたが、今年2月からかなり大胆な展示を行っていて、そのタイトルが“カントリーサイド、その未来”というんです。


(写真:Kristopher McKay © Solomon R. Guggenheim Foundation, 2019)

今回展示を監修したのがこの3人、左から建築家のレム・コールハース、真ん中が美術館のキーレイタ―のトロイ・コンラッド・テリエン、それにシンクタンクAMOディレクターのサミーア・バンタルです。

レム・コールハースはオランダ人ですが、都市計画をメインとしたアーバニストな建築事務所を主宰しています。そんな彼が世界人口の半分が暮らしている都市ではなく、残り半分のカントリーサイドをテーマに今回展示を企画しました。グッゲンハイムは近代アート美術館ですから、通常は絵画や彫刻などが展示されているのですが、今回の大胆な試みでは、アート展示というよりは、社会学発表のような趣となっています。

(写真:David Heald © Solomon R. Guggenheim Foundation)

2014年に国連が、都市への人口集中が世界中で起きていることをテーマに調査し、その結果を報告しました。

“現在世界の人口の半分が都市に、半分が田舎に暮らしていますよ。”と聞いてもそれはそうだろうぐらいにしか感じていなかったんですが、レム・コールハースによると、都市は世界中の2%程度の広さしかない地域なんだそうです。98%が都市以外の地域、つまりカントリーサイドというわけです。人口の半分が2%に集中しているだけでも驚きなんですが、都市への人工集中のスピードは凄まじく、30年後の2050年頃には、その割合が現在の50:50から、70:30、下手をすると80:20になってしまうとも警告されているんです。

国連は、地球環境の持続性を考えた時、都市をどう運営していくかは深刻な問題になるだろうと警鐘をならしているんです。

(写真:Laurian Ghinitoiu courtesy AMO)

建物の設計がカタツムリ状なので、こんな風に上からぐるぐる降りてくる感じで展示が見られます。一度下から上がって行って、少し目が回ったこともありましたが…(笑)。

(写真:David Heald © Solomon R. Guggenheim Foundation)

国連もそうですが、都市部集中問題を論議したり警告したりする機関や政府はあっても、住みよい田舎というテーマを真剣に検討しているのは中国政府くらいだそうです。というのも、中国の場合、現在の田舎の人たちが都市に押し寄せれば大変なことになるという、人口流入に歯止めをかけたいという深刻な問題が背景にあるからとだそうですが。

ゴミなどは確かに都市部から多く出てくるものの、それが廃棄されるのはカントリーサイド。つまり環境問題は地球の98%の地域にとってこそ大きな影響がありますから、温暖化による雪解け、海面上昇などの問題もここでは取り上げられています。

(写真:Laurian Ghinitoiu courtesy AMO)

高齢化していく日本の田舎の問題も取り上げられています。そこではロボットやAIを駆使して、様々な問題を解決していこうというスタンスのようです。

田舎の問題に少し詳しくなって美術館を出て南に向かうと、今マンハッタンにまるで雨後のタケノコのように増えてきているペンシル・タワーが。

まるで鉛筆のように細く長く、高く空に向かっているのでそう呼ばれているんですが、限られた土地の中に人口が増えていくと、空に高く伸びていくしか住居を確保する方法がなくなってくるんですね。これは都市の人口集中の象徴でもあったということです。

街のあちこちにみられるアートもそうですが、こうした噴水も都市に住む人たちの気持ちをほぐしてリラックスさせる効果を持っています。

ハトにとっても貴重な飲み水を提供してくれていますし。

実は次のミーティングはブルックリンで、モーガン駅近くでした。この辺りのカフェは観葉植物が多く飾られていて、緑にあふれています。ブルックリンが人気なのは、見た目も、人々も有機的だからということもあるからでしょう。何かを創造している、表現しているアーティストたちが多く住んでいるので、都会なのに、カントリーサイド的テイストをあちこちに残しています。

ストリートフェアが行われていました。マンハッタン内のフェアのように、規律よく一斉に朝早くから始まるでもなく、ぼちぼち午後に始まってきているようです。歩いている人たちも、特に何かを買おうという感じでもありません。地下鉄で30分ほどなのに、時間がとてもゆったりと流れているようで不思議です。

さて、如何でしたか。

都市と田舎。都市では建物も、サービスも、歩く人たちも生産性、生産性と唱えて時間と競争している感じがしますが、それが地球上でほんの2%のスペースで起きていることで、その2%のスペースで世界の半分もの人たちが、毎日生産性の呪文を唱えながら生きているということなんですね。コロナ・ウイルスでもし、そのスピードに“待った!”がかかるなら、それも自然の意思なのかも…そんなことをふと思いました。

ではまた、ニューヨークでお会いしましょうね。

『カントリーサイド、その未来』ニューヨーク・ニューヨークVOL.81Takashi -タカシ-

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