こんにちは、吉田タイスケです。すっかり夏らしくなってきたフランスから、今回はまるで小さなシャトー、歴史文化遺産にも登録されているアパルトマンに暮らすパリジェンヌのお宅を訪ねました。
モンマルトルはサクレクール寺院の近くに暮らす、アートディレクターのステファニー。エルメスやルブタンの映像制作にも携わり、現在は小説も執筆中というマルチタレント・パリジェンヌです。
約束の時間にアパートを訪ねると、ちょうど愛犬のフェルディナンドと散歩中でした。
ここに以前住んでいたイタリア人から譲り受けた、玄関脇のチェストもクラシック…というか、右手の玄関ドア装飾!!パリのアパルトマンでこんなドア、見たことありません。
チェストの上に置かれているのは、「色の山」と題されたステファニー自身の作品。小説も書くし、写真も撮るし、絵も描きます。
「ようこそ我が家へ。まあ、ゆっくりしてって」
あ、ありがとう。パートナーのフェルディナンド、首輪はポール・スミスです。
通りに面して自然光が入るキッチン。観葉植物があるだけで、コンパクトでも開放的なイメージになりますね。
「あまり空間に物を多くしたくないの。作り付けの収納が多いから、整理タンスを置く必要もなくて助かってる」
自分のために撮っているというスナップ写真も、なかなかに良い雰囲気。
一階奥は、装飾の様式については不明ながら、まるでシャトーの一角のようなコーナー。このアパートでコマーシャルを撮影することも。
床に置かれたレトロなスーツケースはマレ地区の人気セレクトショップ、メルシーにて。アール・デコを彷彿させるランプはMarine Breynaertのもの。
ステファニーが着ているモノトーンの上下は、ミニマルながら上質を感じさせるフレンチブランド、クリストフ・ルメール。
サロンの壁に描かれているのは動物たち。こちらも詳細はわかりませんが何かの寓話なのか、ストーリーを考えるのも楽しそうです。
鏡に設置されているのは古い温度計。
「ちなみにボクもよくここで読書してるよ。今はプラトンが語るアガペーを勉強中なんだ」
それはないね、うん。
二階は大きな窓が印象的な、寝室兼アトリエです。
愛犬のフェルディナンドとは、いつでも一緒。
「窓を開けた向かいは木立だし、カーテンもいらないの。ここから見えるのは自然だけで、パリじゃないみたい」
トップスはLemaire、パンツはAcne Studio、靴はAPC。
バッグはシャネルヴィンテージ。
浴室にも窓があって、気持ちの良い空間です。こちらは通りに面していて、下がカフェのテラスなので身を乗り出したらちょっと(?)大変。
照明はクラシックなシャンデリア。
浴室のコーナーには、ブロカントで購入した試験管を思わせる一輪挿し。
パリではカフェやレストランが再オープンして、テラスも連日賑わっています。
アトリエに飾られた花瓶はニューヨークで。後ろの額は、敬愛する作家のヴァージニア・ウルフ。ダウンロードしたポートレート画像に、パステルで自分で色をつけたもの。
小説のプロットやアイデア、大切に思える言葉を残すのは、エルメスのノートにインクペンで。ノートに書き込むという感触や、指にインクがついてしまうことも、「書く」ことの魅力だからと。
今年出版予定の小説のプロット。手書きで書いたものを見せてもらいました。
小説のテーマはソーシャルネットワーク。
「この古いノキア携帯の時代はSNSもなくて、今よりも一言のメッセージが大切だったと思う。広がったことで薄く、軽くなった現代の関係性に疑問を持って、数万人のフォロワーがいたインスタグラムも最近アカウントを消してしまったの」
ふむふむ。数万人ですか、、。
そして、個人的に自分も真似しよう(←でました)と思ったのが、ステファニーが子供の頃から日常的に作っているという「押し花」。当時は花屋さんになりたいと思っていて、今でも頻繁に草花を拾ってきては自分のために押し花を作って額装したり、しおりに使ったりしています。
こちらはLouis Ferdinand Celine著「Voyage du bout de la nuit(夜の果てへの旅)」と題された小説(手書き版)に挟まれたイチョウの葉。本のタイトルも詩的だし、イチョウと合わせてこれ自体がひとつの作品のよう。
インド産の手漉きの紙に言葉を添えて。
「『花のダンス』パリ19区、モンマルトル公園にて」。絵画でも写真でも、押し花でも、ステファニーはまるで子供が楽しくて好きなことを次々と見つけるように、宝物を増やすかのように自分のためにそれぞれを作っていて、ひとつひとつを嬉しそうに話す彼女を見ていると、うまく言えませんが「ずっと前に忘れていたもの」に触れる気持ちになります。大切なのは楽しく、自由にですね。
「近所に住んでいる友人の詩人で作家のフランソワよ」と見せてもらったイケメン写真、これも撮影はステファニー。いやはや、写真も上手いね。フランソワの繊細な感じが伝わってきます。
さて、ワードローブからお気に入りをいくつか紹介してもらいました。こちらはプラダのDouble。
こちらはシンプルで一番気に入っているという、セリーヌのデッドストック。
18歳までスイスに近い、自然豊かな環境で育ったステファニー。
「モンマルトルはパリの田舎、今でもモンマルトル『村』と言われるけど、その通りだと思う。中心部よりゆったりしていて、何だかほっとする」
たしかにモンマルトルだけ、いまだに流れている空気が違う感じがします。住んでいる人たちがのんびり(吉田調べ)なせいか、不思議な結界が張られているのか。
パリであってパリではない。不思議の国モンマルトルから、自然体で「暮らすこと、創ること」を楽しむパリジェンヌのアパルトマンをご紹介しました。次回もどうぞお楽しみに。
Coordination: Tomoko YOKOSHIMA