こんにちは、吉田タイスケです。大時計の向こうにサクレクール寺院を眺められるこの場所は、パリのオルセー美術館内にあるカフェレストラン。1900年当時、パリ万博のために作られた駅舎の面影を、この時計に今も見ることができます。
さて、今回のヨーロッパ写真日和はパリの美術館から。現在イヴ・サンローランの最初のショーから60年を記念して、パリの6つの美術館でサンローランのオマージュ展が同時開催されているんですが、その中からオルセー美術館とポンピドゥーセンターの2つをご案内します。写真はオルセーの大時計を背景に配された、サンローランの代名詞「スモーキング」。男性が着用するよりも、そのエレガンスさが際立つ麗人たちが立ち並ぶ様子が目に浮かんでくるようです。中央のドレスは1971年、ギー・ド・ロスチャイルド男爵が主催するマルセル・プルーストの生誕100周年を記念する舞踏会で、サンローランがジェーン・バーキンのためにデザインしたもの。プルーストの「失われた時の中で」を彷彿させる、19世紀末のスタイルを踏襲しています。美しさの中に力強さがあるような後ろ姿が、この舞台に映えますね。
こちらは男爵夫人のためにデザインされた、もう一着の後ろ姿。
オルセー美術館が、舞踏会会場となっていました。
その他、サンローランが描いたデザイン画なども展示されています。
せっかくなので、サンローラン以外の作品もいくつか見てから次のポンピドゥーセンターへ移動しましょう。
発表当時、『現実世界のヌードを描くなんて!』と大批判を受けたマネの「草上の朝食」(1862-1863)。オルセー美術館は19世紀美術専門の美術館で、印象派の画家の作品が数多く展示されています。
バレエを扱った主題を数多く描いたエドガー・ドガ、「青い踊り子たち(1893)」。シックな壁紙の色も相まって、この背景に滲むような青い踊り子たちになぜか惹かれます。
こちらも壁紙の色と相性が良い、21世紀のベレー&トレンチコート、、。
カミーユ・ピサロ「エラニーの風景(1870)」。パリ郊外ののどかな風景を好んで描いたピサロ。穏やかな気持ちが伝わってくるような光です。
どこまでもやわらかいルノアール「ピアノに寄る少女たち(1892)」。
「リンゴとオレンジ(1899)」。キュビズムの先駆けと言われる由縁でしょうか、それに比して何を描いてもゴワゴワした印象のセザンヌ先生←失礼極まりない。いや、静物画もビベミュスの石切場を描いた絵も大好きです。
展示室を順路通りに歩いていくと、ポスト印象派あたりでエッフェル塔を眺められる窓があります。一枚の絵画のような風景は、夕暮れ時がおすすめです。
数年振りに実物を見たゴッホの「星月夜(1888)」。ゴッホの絵で一番好きな絵です。これを描いた時は比較的精神が安定していたんだろうなと、、。記憶の中の絵よりも青に湿度があって、眺めているうちにローヌ川は額縁を越えて流れ、川面に映る光が揺れているように感じます。
元々駅舎だったオルセー美術館、この美しい丸屋根がひとつの舞台装置になっていますね。
19世紀パリ行きの列車は、まもなく発車いたします。
動物を愛した彫刻家、フランソワーズ・ポンポン「シロクマ(1922)」も健在でした。
全てではありませんが、彫刻もそれぞれが映える背景の色が組み合わされています。
オルセーの最後に一枚だけ。地上階にジャン・フランソワ・ミレーの有名な「落ち穂拾い」が展示されていますが、その並びにこの「春(1873)」があります。嵐雲が流れて虹が差す画面からは光が溢れてくるようで、思わず立ち止まってしまう一枚です。パリからノルマンディーに引っ越したせいか、田舎を描いた絵にやたら心惹かれるオルセー美術館でした。
というわけで空が星月夜に近くなった頃、ポンピドゥーセンターに到着です。
館内に入ると、インパクトあるブタが出迎えてくれます。ハッサン・カーン「PIGGIE PIGGIE LONGHNADS GROWL GROWL(2019)」。
さて、こちらもオルセーとは違った意味で、アミューズメントパークのようなエスカレーターを上って展示室へ。
上から眺めるパリの町も楽しみのひとつ。
エッフェル塔にアンヴァリッド。パリには高い建物がほとんどないので、ポンピドゥーからの眺めは貴重です。
さて、ようやくサンローランの展示に到着(←寄り道が長い)。ポンピドゥーでは、サンローランが絵画を元に製作したドレスが並びます。彼にとって常に芸術はインスピレーションの源でした。自宅にもピカソやマティス、コクトー、セザンヌと美術館さながらの名作が溢れていた生活の中で、絵画に呼応するドレスを製作するのは必然だったのかも知れません。
パブロ・ピカソ「ヴァイオリン(1914)」、サンローラン「ジョルジュ・ブラックへのオマージュ(1988)」。キュビズムつながりということで。
パブロ・ピカソ「道化師と首飾りの女(1917)」、サンローラン「パブロ・ピカソへのオマージュ(1979)」。
並んでいて、全く違和感がありません。
色鮮やかなドレスは、、
ロベール・ドローネ「Manege de Cochon(1922)」。こちらへのオマージュ。
サイドから。背景にある絵画の方が、このドレスに合わせて描かれたかのようです。
こちらはサンローランとは関係なく、自分が高校生時代に机の前に貼っていたポスターの実物に出会い、感動して撮影した一枚です。これが本物か!(←突然の横道)。パウル・クレー「リズム(1930)」。
そしてサンローランが製作したドレスによって、世にその名が知られることになったピエト・モンドリアン「赤・青・白のコンポジションⅡ(1937)」。
ドレスもまるで、一枚の絵画のようでした。
まさにイヴ・サンローランフェスティバルのパリ。彼の広大な仕事の軌跡が辿れる6つの美術館の展覧会の中から、オルセー美術館とポンピドゥーセンターをご紹介しました。次回はパリ・プレタポルテコレクションのショー会場から、ストリートスナップをお届けする予定です。どうぞお楽しみに。