今日は、マディソンです。
コロナの影響はもちろんですが、続くBLM(ブラックライブズマター)運動や暴動で、ソーホーはかなりの打撃を受けました。その為か、自粛が明けてもまだオープンしない店舗も少なくありません。
そんなソーホーで、コロナにめげずにオープンしたのがアーリアスで、街の人々がエネルギーを感じたのでしょうか。オープン時は行列ができたと聞いています。
(写真:Arias 2I3A0025 – © 2020 Vicente Munoz 2I3A0030 – © 2020 Vicente Munoz)
ミニマリストでありながらフェミニンと言われるアーリアスのスタイルは、現代アートにインスピレーションを受けてデザインされているそうです。
実はブテイックのあるソーホーのこの辺りは彼女にとって馴染んだエリアで、というのも今回オープンしたショップから数ブロックのところにある、アンドリュー・クレップ画廊の彼女常連だったんですよ。
ショップをオープンするにあたってアンドリューに相談し、彼女が今一番気になっているアーティストの作品を数点展示販売することを決めたそうです。
そのアーティストとはアネット・ケルムで、ここに飾られているのがその作品の“ヘルムホルツ・サイレン。”2017年の作品だそうです。
(写真:Arias 2I3A0056 – © 2020 Vicente Munoz)
アーリアスの服はミニマリストなので、フリルなどで飾り付けずに女性らしさを表すことに成功しています。
ニナ・セイリン・アーリアスがブランドを立ち上げたのはつい最近の、2016年8月のことでした。
女性的で縫製のしっかりしたデザイナー・ブランドの服が、高すぎて一般の人たちにはとても手が届かないと感じたのがきっかけだそう。
サンフランシスコで育った彼女がファッションに魅せられたきっかけは、父親のスーツの仕立てについていった時。
幼い少女だった彼女の目の前に、色とりどりの布が広げられ、それがいくつものピンで父親の身体にピッタリとあてられていくさまは、まるで魔術にかけられたように魅せられる体験だったそうなんです。
実は彼女学歴が素晴らしく、難関スタンフォード大学を卒業後、ロンドン大学のビジネススクールでMBAを取得しています。ところがどうしてもファッションをあきらめられず、マンハッタンのパーソンズ・デザイン・スクールに入りなおして勉強したんですね。
知的で慎重な彼女は卒業後すぐにブランドを立ち上げず、まずはバーバリーやカルティエに勤め、ハイブランドの裏も表も学んで、準備万端な状態で自身のブランドを立ち上げたというわけです。
(写真:Arias 2I3A0007 – © 2020 Vicente Munoz)
ここにはアネット・ケルムが2018年に発表した現代アート作品の“ピアノ・レッスン”が飾られています。ニューヨーク・タイムズも絶賛した作品。
写真家でありながらドイツ現代アートの作品も次々生み出しているケルムは、コンセプチュアル・アートで知られています。コンセプチュアル・アートという言葉自体は聞いたことがあっても、実際どのような芸術のことなのか、一般的には案外知られていないようなので簡単に解説明しますが、マルセル・デュシャンというアーティストが作り始めて、ようやく60年代から広く知られるようになった種類のアートだそうです。
マルセル以前のアート界は、如何に美しい作品を生み出すかに主眼を置いていたのだけれど、コンセプチュアル・アートでは美しさではなく、主に知的刺激を求めているんだそうです。
確かに花の背景に何十個もの鍵盤が描かれての、タイトル“ピアノ・レッスン”というこの作品を見ていると、美しさよりも“なるほど!”という感じになりますね。
(写真:Arias 2I3A9866 -© 2020 Vicente Munoz 2I3A0009 – © 2020 Vicente Munoz)
上段左の作品はケルム2016年の“ぺパーとパックマン”、真ん中が“リリー1”,右端の作品名がわからないんですが、こうしてアート作品とならんでいると、アーリアスの服のミニマリズム的な配置が、少しも淋しく見えないから不思議です。価値を上げる見せ方を心得ているんでしょうか。
(写真:2I3A0065 – © 2020 Vicente Munoz)
まだ立ち上がって間もないブランドなのに、彼女の服のファンはセレブに多く、2016年にイギリスのインターナショナル・モデル・オヴ・ザ・イヤー賞に輝いた、グローバル・トップモデルのジジ・ハディットがその代表でしょう。
モデルであり、テレビ番組のパーソナリティーとしても大活躍のクリッシィ・タイゲン、インドの女優で2000年にはミス・ワールドに輝いたプリヤンカ・チョプラ、アメリカのティーン向けテレビドラマでお馴染みのゲイブリエル・ユニオン、歌手のマンディ・ムーアなどなど、アーリアスはまだ立ち上がって4年ほどなのに、ただ今人気急上昇中のニューヨーク・ブランドなんです。
(写真:Arias 2I3A9970-Edit – © 2020 Vicente Munoz)
試着室にもアートが。まさに、ブテイックでありながら画廊でもあるって感じがしますね。
(写真:Arias 2I3A9941-Edit -© 2020 Vicente Munoz)
たくさんのセレブがその服を着ている写真をインスタに上げていたり、パパラッチに撮られたりしている中、アーリアス製品は、ラグジュアリー・ファッションサイトのネット・ア・ポーターなどのサイト販売はじめ、全米の高級セレクトショップでも販売されています。
ですから、コロナで高級ブランドショップやデパートまでもが次々閉鎖していくなか、彼女にはフラグ店をオープンしないという選択もあったんです。
ただ彼女にとってのソーホーは、ファッションとアートにあふれる憧れの場所でした。
“それにコロナと暴動で街が傷ついている今だからこそ、少しでも街に活気を呼び戻したいという熱にかられたのよ”とインタビューに答えています。
そして、そんな彼女の熱意に共感した形で、ショップのオープニングに女性たちは列をなしました。
(写真:Arias 2I3A9880-Edit – © 2020 Vicente Munoz)
彼女が住んでいるのは西側のウエスト・ビレッジで、お気に入りのレストランもたくさんあるそうです。彼女が靴をいつも買っていたバーニーズは残念ながら閉まってしまいましたし、お気に入りのバーがあるグラマシー・パーク・ホテルは、コロナでまだ再開していません。
ただ彼女お気に入りの美術館である、メトロポリタンは無事再開できました。今では屋外だけでなく、25%収容規模でレストラン内での飲食もできるようになってきています。
彼女の言葉で表現するニューヨーク、それは“Full of Life” 生命に溢れた場所なんです。
通りを挟んで向かい側には、ニューヨークで一番健康的なコーヒー、多分。多分と付け加えているところにニューヨーカーらしいユーモアのセンスを感じますね。
つい2週間前に、ニューヨーク市長がブロードウェイは来年6月まで閉鎖を発表しました。
タイムズスクエアの辺りは、何時もならごった返しているんですが、劇場が全面的にあかないとなると、劇場客を見込んだレストランや、国内外からの観光客も通常通りには見込めません。
とはいえ、街は次第に活気を取り戻してきています。それが証拠に、交通渋滞があちこちで起こり始めていますから(笑。)
ではまた、ニューヨークでお会いしましょうね。