ライフスタイルにプラスになる、ファッショナブルな情報を発信。-abox-

851

『2022年、パワーアップしたホイットニー美術館』ニューヨーク・ニューヨークVOL.125

(写真:Schenck Whitney Day’s End 2021_04_28 DSC_7014 by Whitney Museum)

今日は、マディソンです。

ホイットニー美術館に来ています。ハドソン川に向かって立つこのオブジェは去年の4月、コロナ禍で完成したデイヴィッド・ハモンズの作品で、その題名は“その日の終わり”だそうです。去年作られた公共アートプロジェクトのなかでは全米ナンバー1の規模だったそうで、気になってはいたんですが、コロナでなかなか見に来られませんでした。アーティストであるハモンズとハドソン川公園との、共同プロジェクトらしいんですが、52フィートの高さ(約15メートル)、325フィート(約99メートル!)の長さで幅65フィート(20メートル)という壮大なスケールです。


(写真:JenniferPacker_1198 by Whitney Museum)

美術館の中に入ると、まず目に入ってきたのがジェニファー・パッカーの作品でした。“目は見ることに満足していない”というタイトルの。さて、どんな意味があるんでしょうか。


(写真:Say Her Name by Whitney Museum)


(写真:A Lesson in Longing by Whitney Museum)

彼女の作品を表す言葉は、注目、記憶、そして即興だそうです。

まずはしっかりと目の前の光景に細部まで注意を払い、それを記憶にとめ、さらには、そこからは自由に表現している、私たちの眼にはその流れが映ります。

題材となっているのは花だったり、家族だったり、友達だったりするんですが、静止画だというのに生き生きしていて、登場人物が語りかけてきているようです。一つの絵の中にたくさんのカラーを置かないからこそ、色を使いながらもまるで白黒のデッサンのような雰囲気も醸し出していますね。


(写真:Cumulative Losses by Whitney Museum)

彼女の作品のタイトルがまたクールで、このビリヤードをする男性が構えている作品など“蓄積された負け”と表示されています。多分ビリヤードの勝負には強くないこの友人か家族の男性、その勝負弱さが、次のゲームへとボールを今まさに突こうとしているときに、その先にあるのが暗い沼のような、また次の負けへといざないそうな、深い紫色なんですね。

初めて彼女の作品に注目が集まったのが、やはりこのホイットニー美術館で、2019年のことだったそうです。自由に表現する抽象画家と評されている彼女の、その表現へのモチベーションは、アフリカ系アメリカ人であることだと言われています。彼女が自身の友人や家族を作品の題材に選ぶことには政治的な意味合いがあって、“自分たちアフリカ系アメリカ人が今ここに生きているということを、見てもらって、知ってもらうこと。私たちの声を聞いてほしい。”という思いで描いていると、当時のインタビューに答えていました。


(写真:90_19_Krasner by Whitney Museum)
一方こちらは今年パワーアップしたホイットニー美術館が次に力を入れた展示の中の一つの作品です。

その展示のテーマは“ラビリンス・オブ・フォームズ。”30年や40年代のアメリカでは、芸術表現の手段として抽象画の人気が爆発しました。そんなアーティスト達の中には女性たちも多く含まれていたため、今回の展示は女性たちにスポットをあてています。


(写真:69_221_Nevelson by Whitney Museum)

抽象画は評価するのが難しいと言われていますが、これなどまさにそうですね。丸い一筆書きのような…。ただ、じっと眺めていると丸さのなかにしなやかさ、軽さ、暖かさまで感じられるのが不思議です。

抽象画の形や技術とは何か、そして抽象というコンセプトそのものを現代にむけて発達させてくるには、この時代の女性たちの視点がとても重要だったと言われています。


(写真:49_7_Fine by Whitney Museum)

今回ここに集められたのは、20世紀前半の30年代から50年代に活躍した27人の女性抽象画家たちの、30以上もの作品だそうです。

当時アメリカのアーティスト達はヨーロッパのアバンギャルドな風潮に啓蒙されて、抽象の世界へとさまざまな試みで作品作りをしたんですが、とはいえ抽象画家の数はというと、そうではない伝統的アーティスト達の数に比べれば全く少なく、その上、彼女たちに対して無理解な批評の嵐が吹き荒れ、画廊も彼女たちの作品をまったく取り上げようとはしませんでした。

激しく吹き荒れる逆風の中、女性アーティスト達は結束してコミュニティを作り、作品を公開できる場所を共有したと聞いています。まさに、ウーマンパワー!


(写真:91_84_5_von Wiegand by Whitney Museum)

こちらは何だか楽しくなってくる作品ですね。

元々ホイットニー美術館は、アメリカのアーティストの作品、しかも存命中の作品がまとまってみられることで有名なんです。設立は1931年、ガートルード・ヴァンダ―ビルト・ホイットニーがグリニッチビレッジの西8丁目に立ち上げたそうです。それが1954年にはモマの近くの54丁目に移転して、1966年にはさらにアパーイーストサイドの75丁目とマディソン街へと移って、現在の場所に落ち着いたのは2015年のこと。移転を繰り返しましたが、こうして今のウエストビレッジのミートパッキング近くにある姿が、一番ホイットニーらしいと感じます。ダウンタウン・バイブなんですよ、やっぱり。


(写真:2010_109_Dehner by Whitney Museum)

ホイットニーは20世紀から21世紀のモダンアートのコレクションでは最多を誇り、ジョージア・オキーフ、エドワード・ホッパー、ジャスパー・ジョーンズ、ジャクソン・ボロックなどなど、名だたるアメリカン・アーティストの作品を所有し、世界に知られていないアーティストの作品も多数購入しているそうです。

さてこの作品、最初に外で出会ったハドソン川に浮かぶハモンズの作品を彷彿させませんか?デナーは1994年に亡くなっているので、もちろん去年完成したハモンズの作品を見られたわけはありません。ということは彼女のアートがハモンズの潜在意識に何らかの影響を残した…?


(写真:170721_Largo_Sunset-rev2 by Whitney Museum)

アメリカンアートを堪能して外に出ると、すっかり日が暮れていました。実は先日ホイットニーが、若くして亡くなった悲劇のニューヨーク・アーティスト、ジャン・マイケル・バスキアの展示を3月から5月にかけて行うと、大々的にメディアが取り上げていました。

優れたアートに囲まれるというのは、本当に贅沢な体験ですね。

例えばアップタウンのメトロポリタン美術など、歳月を経ても色あせないクラシカルな作品の魅力にあふれている美術館があると思えば、ミッドタウンには現代美術のモマ、そしてダウンタウンにはアメリカンアートの尖ったセンスのホイットニーがある。そう考えるとニューヨークはアートの街ともいえます。

さて、いかがでしたか。ではまた、ニューヨークでお会いしましょうね。

『2022年、パワーアップしたホイットニー美術館』ニューヨーク・ニューヨークVOL.125Takashi -タカシ-

関連記事