写真:05. GalleryView,Rodarte,Adolfo 1150 By Metropolitan Museum
マディソンです。
去年の9月18日に始まって今年の9月5日まで、一年をかけて行われる予定のメトロポリタン美術館の長期展示“ファッション語彙集”が中身を一部変更しました。そこで新しく展示されたドレスが見たくて、また来ています。
写真のドレスを表現する語彙はジョイ、つまり“楽しさ”ですね。軽やかな黄色地に花が描かれていて、楽しさが伝わってきます。春から初夏という感じでしょうか。
左はロダルテの春夏コレクションから。ロダルテは2005年に西海岸で立ち上がったファッションブランドですが、ロマンチックな中に少しエッジの効いたデザインのドレスで知られています。この黄色のドレスも前が短く、後ろを長くしている点が新しいですよね。
右側がアドルホのイブニングドレスで、1973年ぐらいのコレクションらしく胸元もきっちり、透けている袖が健康的なセクシーさをほんのり感じさせています。年代によって、楽しさの表現もさまざま、というところでしょうか。
写真:08. GalleryView,LaquanSmith By Metropolitan Museum
欲望というタイトルのこのドレスは、ラクワン・スミスの今年の秋冬コレクションから。マンハッタン郊外のクィーンズ地区出身の彼の作品は、トム・フォードから“彼は本能的に、素晴らしいスタイルが何かを知っている”と絶賛されています。
実は彼、最初にヒットを飛ばしたのはレギンス、しかも立体的な印刷が施されている3Dレギンスだそうです。これにビヨンセ、レディーガガ、リアナ、キム・カーダシアンといったセレブ達が飛びついて次々インスタに上げたことで、ファッションデザイナーとしてスターダムに乗ったという逸話があります。
写真:09. GalleryView,JamieOkuma By Metropolitan Museum
こちらもファッション語彙は欲望。とても不思議なデザインのドレスなんですが、2021年のジェイミー・オクマのコレクションです。
彼女、カリフォルニアのネイティブ・インディアン出身で、沖縄人すなわち琉球民族でもあるそうです。ドレスのデザイナーというよりはアーティストとしての位置づけで、アートを身に着けるというスタンス。通常はネイティブ・インディアン文化の色濃い作品がほとんどなんですが、上のドレスではそうした技法をいっさい表に出さずに、そのかわり凝ったドレープをつけることで、かえって欲望というタイトルを浮き上がらせているように見えます。
写真:07. GalleryView,Batsheva,PrabalGurung 1150 by Metropolitan Museum
ここで表現されているのがワンダー、不思議という言葉。
二つとも最近のコレクションで、左がバッシブの2021年春夏コレクション。バッシブは地元ニューヨーク・ブランドで、2016年に立ち上がった新進ブランドですね。女性と少女のためのブランドという位置づけで、お堅い主婦からヒッピー女性まですべての女性に、女性らしい装いを提供したいというミッションのようです。初夏にふさわしい、如何にも少女らしいガーリーなドレスですよね。
向かって右もかなりガーリーです。こちらはプラバルの、今年の春夏もの。実は今年はトップスがほとんどブラに近い形が流行で、それが取り入れられています。ちなみにチェック柄も流行です。プラバルもニューヨークブランドで、2009年スタートなので比較的新しいブランドだといえるでしょう。
写真:06. GalleryView,Wiederhoeft by Metropolitan Museum
ファッション語彙“不思議”、さらに“スィート”と表示されています。こちらもニューヨークブランドの、ヴィーダーホエフトの2019年の秋冬コレクションです。
お芝居やダンスの衣装に啓発されたブランドで、これがデビュー・コレクションの一つでもあるんですが、コレクションは劇場で観るバレエさながらに発表されました。マジカルで、シアター的という評価が彼のコレクションにはついてまわるので、“甘くて不思議”という表現は、まさに彼のためにあると思います。
しかしメトロポリタン、凄いですね。アメリカのファッションでさまざまな語彙を表現するといって、クラシカルで社会的認知度の高い大手ブランドだけでなく、新進の若手ブランドの中からも的を得たコレクションを引っ張り出してくる、恐ろしく広いリーチでファッション・ブランドを認識しているんですね。
写真:04. GalleryView,FrankieWelch by Metropolitan Museum
クラシカルなこの、フランキー・ウエルシのドレスについている語彙は“保証。”
ウエルシというと、彼女のスカーフが今でもよく知られていますが、フォード大統領夫人のドレスをデザインしたこともあるようで、それらをワシントンのスミソニアン博物館で見た記憶があります。何となく、模様の配置がスカーフ的ですね。1920年代のドレスらしく、どっしりとした趣で、保証という言葉にふさわしい感じがします。
写真:10. GalleryView,AnneFogarty,Halston 1150 by Metropolitan Museum
タイトルにある“コンフォート”は、日本語ではよく“快適”と訳されているようですが、ここでは“くつろぎ”でしょう。
左は60年代に活躍したデザイナー、アン・フォガティのコレクションから。富裕層の女性たちがディオールやハイブランドに傾倒している時代に、普通の主婦層にも手が届くフェミニンなデザインのドレスを提唱したことで知られています。
アメリカの不思議なところは、右に大きく揺れると左に揺り戻しがあることで、例えばアルコールは害であるとした禁酒法の時代が過去にありましたが、今ではアルコールが大丈夫なのはもちろんマリファナ解禁にまで大きく振り子がふれています。
また90年代マーサ・ステュワートがプロの主婦とでもいうのか、シェフ並みの一流料理でアメリカの家庭料理やおもてなし料理を格段にアップグレイドした直後には、レイチェル・レイという若い女性が簡単で安上がりで美味しい家庭料理でスターダムにのし上がりました。
40年代後半から、女性らしい曲線を強調したディオールのニュールックが流行ったかと思えば、60年代には曲線とは真逆の、くつろいだスタイルへと大衆を引き戻すファッションがあったということなんですね。つくづく、アメリカらしいと思います。
そのくつろぎをさらに一歩進めて、70年代にハルストンが発表したのが右のデザイン。実はハルストンは最初、帽子職人として知られていたそうです。その後、写真にもあるようなカシミアを素材としたドレスで一世を風靡しました。
今回はメトロポリタンの展示、一部変更だけだったので、変わったコレクションだけ見てきました。次のミーティングがミッドタウンだったので5番街を歩いてきたんですが、コロナなんてどこ吹く風、街はほとんど元通りでマスクの人も見かけません。かろうじてコロナが確実に起こったという名残が、レストラン外にしつらえられたスペースでしょうか。このお店は、マンハッタンで初めて“マティーニを1杯の値段で2杯出すキャンペーンをした場所”とうたっています。“セックス・イン・ザ・シティ”でも4人はウォッカをベースにしたマティーニ、コスモポリタンをいつも飲んでいましたっけ。
6番街と53丁目の角にあるこのブルーのオブジェは、ジャン・マークという名前のブルーの男性像で、ゼイビア・ヴェイルハンの作です。ジャン・マークは写真家として知られてますが、その彼に捧げた像ということらしいです。彼の写真作品に、ブルーが似つかわしかったのかもしれませんね。
今ではオンラインサイトの名前として、ほとんどの固有名詞が名称登録されてしまっているので、新規の企業名やロゴは一見しただけでは意味が分からないものが多いです。この会社のロゴも分数のB分のAと呼ぶんでしょうか…。
あっ、ありましたブルーボトル!スタバほどではありませんが、最近続々とマンハッタンに広がってきていますね。味的にはこちらの方が好みなので、つい探してしまいます。
ザラのショーウインドーは鮮やかな初夏の色彩で飾られています。日本でも80年代バブルの時代に流行ったような大ぶりのジャケットに、パンツは丈は短いものの、ゆったりと裾も広がっています。
メトロポリタンの展示を見てきたからでしょうか。今流行っているこうしたスタイルも、いつか2022年を切り取って展示されるかもしれないと思うと、不思議な気がしますね。
マンハッタン57丁目は別名“ビリオネア通り”とも呼ばれています。昔はミリオネア、億万長者が富裕層ということだったんですが、時代は移り、マンハッタンの中心にはビリオネアたちが台頭してきているようです。ビリオンというと1000億円くらいになりますから、億万長者の1000倍の資産を持つ人々、ということになりますか。ここは以前ご紹介した高級デパート“ノーズダーム”の近くで、5番街に向かっていくとハイブランドが立ち並んでいて、ブランド通りでもあります。
今回ここを訪ねるのは、いまアート界を中心に世界中で話題になってきているNFT(Non-Fungible Token日本語では非代替性トークンと呼ばれています)の拠点タワーができる、と発表されているからです。写真では全体像が見えませんが、外観は細くて長い、ペンシル型の建物。アート界だけでなく、ファッション界でも大手ブランドが次々とNFTでメタバース市場に参入すると宣言している今、一体どのようにNFT拠点づくりをするつもりなのか興味津々です。
さて、如何でしたか。
ではまた、次回もニューヨークでお会いしましょうね。