写真:DIG_E_2022_Virgil_Abloh_01_PS20-Large JPEG by Brooklyn Museum
マディソンです。ブルックリン美術館に来ています。
前回この美術館から紹介したのは、アンディ・ウォーホル展でした。ヴァージル・アブローといえば、アフリカ系アメリカ人で初めて、ハイブランドのクリエィテイブ・ディレクターに就任したことで話題になりましたが、実は彼、音楽や建築、ファッションとさまざまな分野で活躍したという点で、アーティストのアンディ・ウォーホルと比較されることが多いんですね。
ブルックリン美術館、コロナが開けるなり、意欲的な展示が続いています。
写真:VA by Brooklyn Museum
ヴァージル・アブローは1980年にイリノイ州ロックフォードに、ガーナ系移民の子供として生まれました。イリノイ工科大学大学院では建築を専攻したんですが、その頃から少しづつファッションにも興味を示して、自作のTシャツを売ったりしていたそうです。
2009年にフェンディで、ミュージシャンのカニエ・ウェストと一緒にインターンを務めたこともあるそうで、その頃既に光っているセンスがあったんでしょう、フェンディCEOでルイ・ヴィトンのCEOも兼ねていたマイクル・バーグの眼にとまったようです。
カニエも彼のセンスを高くかっていたようで、自身のクリエィテイブ・エージェンシー、ドンダのクリエィテイブ・ディレクターに任命しました。ヴァージルはこの頃、DJとしての才能も発揮して、大活躍していたようです。
2013年、ミラノでハイエンド・ブランドのオフ・ホワイトを立ち上げると、たちまちアパレル界で注目を集め、パリやアメリカ、日本や中国に事業展開していきました。そんなヴァージルですが、一般に知られるようになったのは2018年に、アフリカ系アメリカ人として初めてルイ・ヴィトンのクリエィテイブ・ディレクターに任命されたことがきっかけでしょうね。
写真:AA_SOCIAL_SCULPTURE_schematic_press by Brooklyn Museum
写真:DIG_E_2022_Virgil_Abloh_20_PS20-Large JPEG by Brooklyn Museum
写真:SOCIAL-SCULPTURE_press_01 by Brooklyn Museum
今回の展示はヴァージルの軌跡をと、ブルックリン美術館のゲスト・キューレイター、アントワン・サージャントが3年もかけてヴァージルと進めてきたプロジェクトだそうです。
ソーシャル・スカルプチャ―として、美術館の中にこのキャビンが作られていて、デザイナーやアーティスト、学生、そして活動家たちのコミュニティとなってほしいということらしいです。ディビッド・ハモンズが唱えた“ネグリテュード建築”に沿って作られています。
ネグリテュード建築はヴァージルにとってアフリカ系アメリカ人たちの建築方法で、ハーレムなどで雑誌のラックやドアを作るやり方のことだそう。きっちり細部まで図らないで、アバウトに作るので、それでもドアは閉まればいいんだよ、的な建築方法を指しているそうです。
ヴァージル自身は大学院で建築を専攻しているわけですから、白人的に、細部の細部まできっちりと設計する方法は熟知しているはずです。それでも、彼の好みはアフリカ系アメリカ人たちのスペースの在り方で、きっちりさせないからこそ実用の域を超えたアートの可能性を秘めている、それを今回の展示の大きな一部として表現したかったんだそうです。
写真:28. You’re Obviously in the Wrong Place , 2015-19 by Brooklyn Museum
写真:22. IN OTHER WORDS , 2017 by Brooklyn Museum
上の写真は、ユーアー・オービアスリー・イン・ザ・ロングプレイス、つまり“君は明らかに間違った場所にいる”というメッセージをスカルプチャー・アートで表現したもの。ただ今の世界で、自分の居場所を場違いに感じない人など果たしているでしょうか。はややかにテクノロジー化が進む社会で、誰もが少しづつ場違いな想いを抱きながら生きています。だからこそ少しでも皆が生きやすいようにという願いを込めてLGBTQ的な活動が活発化してきているように思うんですよね。
写真:3. A TEAM WITH NO SPORT , 2012 by Brooklyn Museum
今回の展示、タイトルは“言葉のあや。”
この写真のゼッケン23番というのは、もちろんバスケットボール・スターであるマイクル・ジョーダンの番号で、アフリカ系アメリカ人の若者たちはみな23番の番号をつけたがることを表しているそうです。
というのも彼によれば、貧民街ゲットーから抜け出すには、麻薬の密売人となって大金を稼ぐか、それともバスケットボール選手として活躍するかの2択しかないからだそうです。
写真:53. “FOR THE LOVE OF MONEY”, 2018 by Brooklyn Museum
この展示には“お金を愛するがために”という何とも意味深なタイトルがついています。彼がクリエィテイブ・ディレクターを務めた、ルイ・ヴィトンっぽいバッグに鎖がついていることで、強いメッセージが込められているようですね。
思うのは、ハイブランドであるルイ・ヴィトンもすごいということです。ハイブランドだからとお高くとまらずに、新進のアフリカ系アメリカ人をクリエィテイブ・ディレクターに抜擢してのける。優れた職人技だけに頼らず、常に新陳代謝をわすれない、そんなところがハイブランドとして生き残ってこれた舵取りのうまさなのではないでしょうか。
写真:55. “PSA”, 2019 by Brooklyn Museum
“何もかもを、一旦疑ってみよう”というメッセージこそ、ヴァージルの姿勢を表しています。既存の形やシステムを疑い、それを超えることでキャリアを作ってきた彼。
ガーナ系移民として新天地アメリカで生活と戦う両親に育てられ、建築学を専攻したにもかかわらず、ファッション・デザイナーを天職とした彼。
一つの業界、領域を超えて、ミュージシャンや、建築家、ファッションデザイナーたちと次々精力的にコラボを繰り返し、独特の世界を広げてきた彼。
そんな彼の生き方は、どうしてもアンディ・ウォーホルの生き方と少し重なってみえてしまうのです。
写真:15. “Untitled” Supreme c o Virgil Abloh, 2019.2 by Brooklyn Museum
写真:DIG_E_2022_Virgil_Abloh_40_PS20-Large JPEG by Brooklyn Museum
大人気のシュプリームとのコラボ製品。発売するなり、あっという間に売り切れてしまったので、こんなにたくさんひとつの場所で目にすることはありませんでした。
写真:26. PINK PANTHER , 2019 by Brooklyn Museum
ピンク・パンサーという展示。
2019年に、心臓血管肉腫というごく稀なガンを宣告された彼は、このブルックリン美術館展示の準備期間のほとんどを闘病していたことになります。ただ、家族以外の誰にも病気のことは知らせずに、最後までクリエィティターとしての職務を全うしました。葬儀には、カニエやリアーナらミュージシャンはもちろん、スケーターやラッパー、ハイファッション業界の人々などたくさんの人々が訪れたものの、みな41歳という若さの天才をなくしたことに呆然としていたと報道されています。
さて、如何でしたか。短い人生を駆け抜けた天才デザイナーの展示…心に染み入りますね。
ではまた、ニューヨークでお会いしましょう。