マディソンです。
この夏、アート&デザイン美術館(通称MAD)はテイラー・スウィフト展を開催しました。丁度テイラーは“時代”というタイトルのツアーを今年開催するので、彼女のコンサート衣装を年代、時代別に展示する試みとなったようです。
実はテイラー、7月のシアトル・ツアーで盛り上がった観客14万人が踊ったり、飛び上がったりしたことで、マグニチュード2.3の地震が起きてしまったそうです。
それでこの地震は“テイラー・クエイク”と名付けられました。ツアーで訪れるあちこちで伝説を生み出している彼女、今回はそんな彼女のコンサートの軌跡が見られる展示となっています。
会場に入るとすぐ、テイラーのサインがライティングされています。
今回の展示は、テイラー・スウィフト“語り部”というタイトルで、彼女のデビューから現在まで、さまざまな節目を彩ったステージ衣装を展示しています。
いうまでもなく、現在最も人気アーティストの一人となったテイラー。そんな彼女は、女性ミュージシャンが、常に世間のイメージをいい意味で裏切っていかなければならないプレッシャーについて語っています。
ここに飾られている30着の衣装で、彼女がどのように常に進化し続け、そのイメージを持続してきたのか、彼女のキャリアを作ってきた衣装を使って、どうやって彼女がミュージックシーンで生き残ってきているのか、その種明かしがされるということなんです。
グラミー賞に41回ノミネートされていて、そのうち11回受賞している彼女は、もちろんこれまでも人気シンガーでしたが、去年あたりからもう一つ上の段階に上がって、社会現象になってきているように思います。
昨年12月、チケット・マスターがオンラインで彼女のコンサートチケットを先行販売をしようとしたところ、一気に申し込みが殺到してシステムがクラッシュ、その後の一般販売が中止になってしまうという事態が起こりました。
この時アメリカのネットワーク・テレビには大々的に泣きわめく少女たちが現れ、その父兄たちが苦々しい表情でインタビューに答えていたものです。
問題の原因となった先行販売は、公正な競争を妨げる反トラスト法に触れていると、カリフォルニア州でチケットを購入できなかった26人が訴えを起こす騒動に広がりました。
チケット・マスター側の弁としては、コロナもあり、彼女が3~4年間コンサートを行えなかったことに原因があるとテレビインタビューで答えていましたが、それにしてもスウィフト人気の凄まじさを見せつけられる出来事でした。
ご覧ください。いくら夏休みシーズンとはいえ、普段美術館ではあまりみかけない、お洒落なティーンが続々見に来ています。“ママ、ニューヨークに連れてきてくれて有難う!”という声も聞こえました。
9歳の頃ミュージカルに興味を持ち始めたテイラーは、12歳のころからギターを練習して曲作りを始めたそうです。それ以前には詩のコンテストで全国優勝したこともあるという彼女、言葉に対する感覚がもともと鋭いのでしょう。テイラー語録は、テイラーファン “スイフティーズ” の間で暗証されているそうです。
“人生って嵐の中を生き延びるんじゃなくて、雨の中で踊ることだと思う”“貴女が望むことが叶わないなんて言う人を絶対に信じないこと”“平凡であることの恐怖に、いつもおののいているのよ”などなど…。
彼女は今でこそ押しも押されもしないスターですが、その出だしはトライしてもなかなか芽が出ない苦闘の連続だったそうです。
こちらは2019年のMTV賞の授賞式で、アルバム “ラバー” が表彰されたときの衣装です。ジャケットの刺繍が凄いですね。
今年のツアーについては、歴代ミュージシャンで初めて売り上げ1ビリオン(1,420億円、1ドル142円)を超えたと報道されていました。
さらには、彼女がダンサーや音響をはじめとするステージ・スタッフや、バックステージに食事を準備しておいてくれるケイタラーにまで臨時ボーナスを支給、それが総額55ミリオンダラー(78億1,000万円!)もに上ったと報じられていました。
若干33歳にして、その座長としての太っ腹さは、リーダーシップはかくあるべきと、経済誌で絶賛されたほどです。
実はアメリカでは、最初のチケット販売こそチケットマスターが関与するんですが、再販が合法なんですね。つまり需要が高ければチケットの販売価格は上がり、これをダイナミック・プライシング・システムと呼ぶらしいんですが、そうなると彼女のチケット4万ドル(569万円)を超えてしまうそうです…何と。
今回の展示ではテイラーの初めてのギターや、コンサートでつけたアクセサリーも飾られていて、少女たちが見入っていました。
彼女はペンシルバニア州の出身なんですが、最初は実はカントリーシンガーに憧れていたそうです。確かに初期の頃、まだ少女たちのアイコンになる前には、ギターで弾き語りのような感じで出てきていましたね。
アクセサリーの方は少しアウトローな感じをだして、今年春爆発的に売れた曲“アンチ・ヒーロー”のような匂いがします。2017年に発表されたアルバム・レピュテーションの中の“ルック・ホワイト・ユー・メイド・ミー・ドゥ”で身につけたもの、グッチがデザインしました。
上の写真右手のゴールドの衣装は2014年に発表されたアルバム“1989”のコンサートで着たものです。音楽チャートのビルボード200に驚愕の450週間も留まりました。一年が52週ですから、何と8年半以上になります。
下の写真の向かって左手が、去年発表の“ミッドナイト”プロモーションビデオの衣装だそうです。
もちろん、これらはステージ衣装なので、彼女が普段着ているものではありません。ただ、衣装こそが少女たちの憧れるテイラー像なのですから、親にねだって参加できたコンサートや、飽きることなく繰り返し見たプロモーションビデオに重ねている少女たちが、美術館に押し寄せる気持ちが少し伝わってきました。
さて、如何でしたか。
テネシー州ナッシュビルで、カントリーソングのデモテープを次々レーベルに持ち込んでもなかなか成果が出ないとき、テイラーは“この町にいる人々は皆私と同じことを考えている。だから違うことを思いつかなくては”と思ったそうです。
そんな頃にニューヨークを拠点とする敏腕音楽マネージャーによって、アバンクロンビーが行った“明日のスター”プロモーションでモデルに抜擢されました。同時期にコスメ企業メイベリンにも楽曲が起用されて、ようやくミュージシャンとしてスタートが切れたそうです。当時を振り返って彼女、“何とか世に出るための強迫観念にかられていたの”とインタビューに答えています。
ひょっとしたら、美術館で彼女のコスチュームやギターを見て感激している少女たちの中に、明日のテイラーがいるのかもしれませんね。
ではまた、ニューヨークでお会いしましょう。