マディソンです。
シャネルが自社ブランドの電話を作っていた!ということではありません、もちろん。
9月のニューヨーク・ファッションウィークをめがけて、シャネルがブルックリンにポップアップ・ショップをオープンしたんですね。
ファッションウィークは7日から13日まで開催されていて、シャネルのポップアップ店はそのうち8日から10日の3日間でしたが、サイト予約が始まると同時に秒で一杯となり、残念ながら中には入れませんでした。
そこで招待客のヘンリーに頼んで、中の写真を撮ってきてもらったという次第です。
ダイナーといえば、いわばアメリカの食堂で、昔の映画には必ず出てくるレトロなイメージがあります。
そんなブリックリンのダイナーを貸し切ってのポップアップは、シャネルが新しく発売した新フレグランスの名前の、チャンス・オー・フレッシュ・パフュームにちなんで、ラッキー・チャンス・ダイナーと命名されていました。
場所はマンハッタンではなくブルックリンのウィリアムズバーグ。というのも、このポップアップ・ダイナーから数ブロックのところに、シャネルが初めてフレグランスと美容に特化したブティックをオープンしたからなんです。
ピンク、グリーン、そしてイエローの3色のオードパフュームを紹介する3日間のためだけに、専用のカップやお皿も作られているんですね。
このポップアップ・ダイナーでの体験を通して、それぞれのラッキー・パフュームはどれなのか、訪れたゲストが探し求めていくという構成のようです。
開発者のシャネルお抱え調香師オリヴィエ・ポルジュによると、新パフュームは花の香りに少し木の香りが混ざった、キラキラした香りなんだそうです。
何故香りなのにキラキラしているのかというと、あくまでエレガントでありながら、その新鮮さを保ち続けるからだという説明でした。
オード・パフュームにちなんで、パステルカラーのアイスクリームや、ノスタルジックなダイナーらしい飲み物も注文できます。
チャンスと書かれているボトルの隣に、ピンク、クリーム、グリーンの飲み物が並んでいる様子は、この夏流行ったバービーの映画のセットのようでもありますね。
去年年末に、閉店したバーニーズの建物を貸し切って行われたルイ・ヴィトンの200周年記念ポップアップでも、バーニーズの9階にあった有名レストラン“フレッズ”を再現したことが大きく話題になっていました。
ラルフローレンのカフェ“ラルフズ”や、オードリー・ヘプバーン主演の映画“ティファニーで朝食を”にちなんだティファニー5番街フラグ内のカフェなど、ハイブランドとカフェのコラボが増えています。
ブランドの世界観を広める戦略とマーケティング業界では言われているんですが、実はもっと深い効果を狙っている感じがします。
デパ地下効果と同じで、どうやら食欲を刺激することによって、それをブランドへの欲求へと繋げているようなんですね。
ポップアップをオープンした夕べには、ファッション・ウィークを祝して、セレブたちもたくさん招待されました。
ローリー・ハーヴェイ、タリータ・フォン・ダイアン・フォン・ファステンバーグ、メドウ・ウォーカー、イマン・ペレ、トミー・ドーフマン…などなど、リストは永遠に続きそうです。
ウェイターたちはバブルガムのピンク色のエプロンに、昔ながらのダイナー・ハットをかぶってサービスしていました。
ポップアップではパステルカラーのアイスクリーム・シェイクしか見えませんでしたが、オープニング・パーティではダイナーっぽいチキン・テンダー(ナゲッツを長くしたような形)にランチ・ドレッシングや、グリルドチーズ・サンドイッチと、これまた如何にもダイナーらしいアメリカンなメニューがサーブされたそうです。
そうそう、ダイナーって昔はジュークボックスが置いてありました。それがテクノロジーが進んで、各テーブルからジュークボックスでかける音楽がリクエストできる仕組みになっていったんでしたよね。
にしても、このジュークボックス、見た目がレトロそのもので、そのノスタルジックな味わいが、今度は視覚からゲストたちの脳を刺激します。
オープニング・パーティに招待されたセレブたちの中には、確かに若い人たちもいますが、シャネルの愛用者たちは40代以上だと思います。
世界が恐ろしいスピードで変化しつつある中、あの頃は良かった…的な過去の時代を恋しく思う気持ちをゲストたちに思い出させるには、格好の演出ですよね。
ダイナーの中庭には昔ながらのフラワーショップ・スタンドが置かれていて、その横では自分にピッタリの香りを見つけたゲストたちが購入できるようになっていました。
サイズは、1.2オンス、1.7オンス、3.4オンス、それに5オンスの4種類あり、1.2オンスの瓶で90ドル(13,320円、1ドル148円)だそうです。
ティク・ヨア・チャンス!というフレーズは、“是非お試しください(買ってください)”とお願いするのではなく、“貴女の運をお試しなさいよ(素晴らしい香りだから)!”と友達からの呼びかけのように聞こえてきて、さすがシャネル、ブランド戦略のうまさがさり気なくちりばめられていて、マーケティングのお手本になります。
外のフラワー・スタンドからさっと集めてきたような小さな花束は、持ち帰っても荷物にならない可愛らしさですし、統一されたパステルカラーのメニューに、踊るチャンスの文字。パーティの見本ここにあり、という趣です。
もちろんオープニング・パーティの招待客も、それから3日間のポップアップに予約で訪れたゲストたちも、みな全身シャネルか、少なくともシャネルのバックで現れていて、こんなステキな場所に来れたのだから、このブランドを応援しようという意気込みを感じるくらいです。
その空間はブランド対お客、売る人と買う人では全く無くなってしまい、同じテイスト、同じ価値観を共有する仲間たちという意識の位置づけが本当に見事だと思いました。
最後に、協力者のヘンリー・ド・ラ・パズをご紹介しますね。どうです、スタイリッシュでしょう?
彼はテキサス州サンアントニオ市を拠点として、マンハッタンではトップサロンのウォーレン・トリコミに教育ディレクターとして所属、ニューヨークはもちろん、パリ、ミラノと世界のコレクションで活躍し、キャロライナ・ヘレラ、ラルフローレン、オスカー・デ・ラ・レンタらのコレクション・バックステージを務め、日本のブランドでも資生堂やシュウ・ウエムラのステージを任されたこともあります。
親日的で、2019年6月には、ニューヨークで活躍する日本人メイクアップアーティストの安藤弘美さんと一緒に、早稲田美容専門学校でセミナーも開催したほどです。
さて、如何でしたか。
シャネル・ブランディングの強さが垣間見えた、ポップアップ・マーケティングでした。当然オープニング・パーティ翌日には、ヴォーグ、グラマー、ヴァニティフェアなどなど、ファッション雑誌のオンラインには一斉に紹介されています。
今年の秋のニューヨーク・コレクションは、これまでのようにコロナの様子をうかがいながら恐々というムードではなく、その前の夏に起きた女性監督によるバービー映画の大ヒットやテイラー・スウィフト・ツアーの大盛況という女性パワーの追い風で、頑張ろうという風がファッション業界に吹いてきた感じがありました。
ではまた、ニューヨークでお会いしましょうね。