ニューヨークから、マディソンです。
シンガーだけでなく女優、しかもファッションデザイナーでもあるリアナはセフォラとコラボした美容製品、プーマとコラボしたスニーカーなどで、近年はファッションや美容ブランドとしても確実に市場を広げてきています。
そんな彼女が、ラグジョアリー企業LVMHをバックに立ち上げたファッションブランド“フェンティ”は今年5月パリでのお披露目の後、直ちにニューヨークに登場しました。それも通好みのファッションデパート、ソーホーのザ・ウエブスターの1階2階を貸し切ってのポップアップです。
一階はフエンティのディスプレイだけです。今回のポップアップは6月19日から30日までの約10日間の期間限定でした。
今年1月123年の歴史に幕を閉じたヘンリ・ベンデルがミッドタウンの宝石箱なら、ざ・ウエブスターの方は同じようにこじんまりしたデパートとはいえ、ダウンタウンということでストリート性にも強く、ここソーホーの粋を集めたデパートとして知られています。そんな場所をリアーナがハイジャックしたみたいで、攻撃性あるブランド展開と言えますね。
一階にはブランド名ディスプレイの他に、彼女のデザインしたジュエリーも飾られていました。このブルーが、フェンティのイメージカラーだそうです。
今回のジョイントベンチャーはLVMHが51%リアナ49%の持ち株形式で立ち上げられ、リアーナが33.8億円相当にあたる彼女の時間と才能を投資する傍ら、LVMH側が現金33.8億円を投資するという形でスタートするそうです。
音楽だけでなく、彼女が手掛けたセフォラとの美容製品は確かに大成功を収めましたし、プーマとのスニーカーもしかりですが、それにしても世界のラグジュアリーの頂点に君臨するLVMHとのコラボには、欧米のビジネス誌、一斉に取り上げる騒ぎになりました。
さて、2階です。一見したところ、それほど特徴的には思えませんでしたが…。
ウエブスターは個人のタウンハウスを改造して、こじんまりとしたスペース内に運営されていて、スカイライトが入る感じもいいですね。
やはり中に入ると、リアーナの世界!が広がっていました。マネキンはタトゥーがはいっているかのようないでたちです。
リアーナは実は大のタトゥー愛好家で、全身21ヶものタトゥーを掘っているそうです。出身はカリブ海に浮かぶバルべィドス島で、シンガーとしての成功を夢見てアメリカに渡ってきたそうですが、近年はシンガーとしてより、ブランドを次々成功させている実業家的イメージが強くなってきていますね。
そうそう、オーシャンズ8という映画では、めっぽうデジタル技術に強い女の子としてメンバーに加わっていましたっけ。案外それが素なのかもしれませんね。
壁一面にこの壁画、タトゥー模様のマネキンたち、そしてドレスにもこの模様が。
何故リアーナではなく、ではブランド名をフェンティにしているんでしょうか。リアーナの方が彼女の服だと一目でわかって売り上げも伸びるのにと思っていました。ところがニューヨーク・タイムズ誌のインタビューで彼女、こう答えています。
“2000年代ヒラリー・ダフやハンナ・モンタナが大成功し、様々なブランドを立ち上げすぎて市場が飽和状態になりました。その結果、すぐに飽きられてしまったんですね。
それはとっても怖いことだと私は思いました。私はそんな風にはなりたくない。だから音楽はリアーナで、それ以外のコラボブランドはフェンティでと分けることにしたんです。”
彼女、聡明ですね~感心しました。
流行の蛇皮模様のハイヒール。
現在ニューヨークのファッションデザイナーは、これまでの半年先のコレクションの発表というやり方が今という時代に合っているのかどうか模索しています。パリは調査研究の結果、やはりこれまでのように半年前に発表するスタイルを変えないことで、質の高いファッションを継続して提供できるという結論をだし、LVMHももちろん同意したと思います。
一方ニューヨークでは、その決断に合意しかねて、カルバン・クラインなどニューヨーク・ファッションウィーク参加を見送るブランドも出てきています。この点に関しリアーナは、半年先ではなく、毎月新作を発表し、発表と同時に販売するスタイルをとる派だと明言しています。
彼女はそれこそがファッション業界の未来の姿だと信じているそうで、となるとLVMHにとって今回のコラボは、伝統的なブランドを大事にする一方で、その足元で未来に繋がるブランドも育てて行こうという試みに違いありません。
老舗ブランドが生き残ってきているのは、単に伝統だけにこだわらない、伝統の陰にある革新への努力があるからなんでしょう。
今回リアーナのポップアップが行われたザ・ウエブスターの外観がこちらです。白くて細い建物なんですが、ポップアップの間は、彼女のブランドカラーのブルーで窓がおおわれました。
ウエブスターは実は2009年に、ローレィ・ヘアリア・デゥブエルによってフロリダ州マイアミのサウスビーチに1号店が出店されました。著名建築家であるヘンリー・ハウザーが1963年にデザインしたアールデコ調の建物の内部を改装したことが話題になり、地元で人気のデパートとなったそうです。その後、ニューヨークのソーホーにフラグシップとしてできたのがこの建物なんです。
3階は通常のウェブスターの、女性用ブテイックになっていました。リアーナのポップアップが無かったら、2階の方もいつもはこんな感じです。テーブルの上には、今年の人気カラー、ピンクが鮮やかなイブ・サンローランのバッグが置かれていますね。
その左手にはジバンシーのバッグです。
ウエブスターでは、バイヤーさんが一点一点、ここを訪れるお客さまの傾向を慎重に吟味しながら製品を集めていて、ほとんどが一点ものです。ウエブスター創始者のローレィはパリのリッツやルボンマルシェ、近年では香港のレーン・クロフォードらとのコラボレーションすることで、彼女的ファッション世界を世界に広げている人物です。
バレンシアガやイブ・サンローランといった高級ブランドに携わった経験をもとに、ハイセンスな女性たちが何を求めているのか、何に惹かれるのかに深い理解を示していて、それがウェブスターをテキサス州ヒューストン市や、カリフォルニア州コスタメサ市への進出させることにも繋がっているのでしょう。
シャネルやベルサーチの靴。夏のリゾート感に溢れています。バケーションとりたくなりますね。
マイアミの第一号店を描いた絵が、さり気なく飾られています。
5番街の宝石箱と呼ばれた“ヘンリ・ベンデル”は幕を閉じてしまいました。そうして5番街フラグシップのラルフローレンも。そんな中、マイアミ発なのにソーホーにフラグ、そして全米に広がって行っている一味も二味も違うザ・ウエブスター。
シリコンバレーはじめ全米のブランドが注目する、デジタル技術の発達とその小売りやブランドへの影響を調べた年次報告が、今年も6月に発表されたんですが、それによると、小売市場でのオンライン販売は確かに大きく伸びてきていて、全体の15%程度になってきているそうです。
ではその陰で小売店舗販売が不振かというとそうではなく、店舗販売も2%ではありますが伸びていて、決して減少してはいないそうです。となると、つぶれているのは飽和したブランド、飽和の結果飽きられたブランドということではないでしょうか。
リアーナが本能的に感じたように、またローレィがハイブランドの魅力の伝え方に慎重なように、実は店舗販売にはまだまだ可能性があるのかもしれません。
また次回もニューヨークでお会いしましょうね。